ユーイング肉腫

ユーイング肉腫について、原典を通して知るためのブログ

Quis es?

何者か?

さて、元の時代に戻りましょう。Dr. Ewingが、その特異性を指摘した、骨に発生する未分化円形細胞肉腫、骨のびまん性内皮腫、または骨の内皮性骨髄腫、即ちユーイング肉腫ですが、実は彼の最初の報告から現在に至るまで、明らかにされていない謎が存在します。

1932年、シカゴ、Dr. RoomeとDr. Delaneyによる報告です。 "UNDIFFERENTIATED ROUND-CELL SARCOMA OF THE ILIUM (EWING TUMOR) CONTAINING HEMOPOIETIC ELEMENTS"(造血要素を含む、腸骨の未分化円形細胞肉腫、ユーイング腫瘍)。Dr. Ewingによる、骨の未分化円形細胞肉腫についての最初の報告から早十年を経て、その間に何が議論されていたのか、本論文で垣間見ることができます、

ユーイングにより報告された骨の未分化円形細胞肉腫は、びまん性内皮腫の名で、一腫瘍として認知されているが、ユーイング肉腫の起源については、少なからず疑問が残っている。ユーイングと彼の支持者らは、骨髄内皮細胞由来だと考えており(恐らく、血管周囲リンパ性内皮)、その意味で内皮性骨髄腫と呼称している。

KolodnyとOberlingらは、ユーイング肉腫が細網細胞か細網内皮に由来すると考えている。骨髄腫との関連も示唆されており、ユーイングも、腫瘍の組織的構造は骨髄腫に近いと述べている。ConnorとKolodnyは、症例の少数ではあるが、骨髄性細胞や形質細胞が腫瘍組織に見られると述べている。但し、これらの細胞の同定法や腫瘍細胞との関連性には触れられていない。

Dr. RoomeとDr. Delaneyは、これらの報告から、ユーイング肉腫が恐らく造血組織に由来するだろうという仮説を持っていたようです。彼らの観察した、一症例の組織像によると、

典型的なユーイング肉腫細胞像の中に、細胞数で言うところ、およそ10%、造血系幹細胞に類似した細胞(血球芽細胞)が見られる。腫瘍塊の辺縁には、骨髄球、前骨髄球と考えられる細胞が見出され、これらの細胞が、より未分化な細胞の周囲にグループを為している。骨髄の海綿状構造は、変性した腫瘍細胞で満たされており、正常な骨髄は見出されない。

顕微鏡学的観察からの考察なので、決定的なことは言えませんが、この様な組織像から、

造血系の分化細胞が、腫瘍に対する反応によるものなのか、造血によるものなのかを言うのは困難だが、もし後者ならば、それは腫瘍細胞から分化したものなのか、それとも本来の骨髄に由来するものなのか。しかし、腫瘍組織のかなり辺縁で、骨から離れて骨髄性組織が見られることは正常ではないので、本腫瘍はおそらく骨髄性幹細胞腫瘍、血球芽細胞腫(hemocytoblastoma)であろうと考えられる。

と結論付けています。本論文から、Dr. Ewingによる報告以来、ユーイング肉腫が一つの特異的な腫瘍であると言うことは、概ね受け入れられている様子が伝わってきます。一方で、ユーイング肉腫の未分化性が、その起源について様々な憶測を呼び、Dr. RoomeとDr. Delaneyの見解によると、ユーイング肉腫の細胞学的起源が、骨髄性幹細胞にあり、更に、腫瘍内に様々に分化した造血系細胞が見られることを特徴として、血球芽細胞腫(hemocytoblastoma)であろうと推察しています。

ユーイング肉腫の起源追究は、まだまだ白熱して行くことになります。

 

 N. W. Roome and P. A. Delaney

"UNDIFFERENTIATED ROUND-CELL SARCOMA OF THE ILIUM (EWING TUMOR) CONTAINING HEMOPOIETIC ELEMENTS "

The American Journal of Cancer

1932;16:386-398